妊活ダイアログ 七変化さん Vol.7

この企画では、経験者の声、お医者さんの言葉、

妊活や不妊治療にまつわるアレコレを綴ります。


どんな未来が待っているんだろう。

あなたのいろんな未来の可能性を見つけてみてください。





「ハッピーマタニティライフ」は送れない



診察室に入ると、陽性の反応を示す妊娠検査薬が置かれていた。「不妊治療の専門クリニックなのに、ずいぶんシンプルな方法を用いて妊娠判定するのだな」とぼんやり考えたことが印象に残っている。


「あらためて、おめでとう。とりあえず妊娠11週(妊娠3カ月最後の週)まで当院で経過観察をして、問題がないようであれば出産の病院を決めましょう。日常生活で取り立てて意識する必要する事柄はないけれど、暖かくして過ごしてね」とドクターはいい、その日の診察は終わった。


体外受精では採卵日が妊娠2週0日となる。受診した妊娠判定日は、4週を過ぎたところで、その後だいたい5週で胎嚢確認、6週で心拍確認という目安となっている。もちろん、週数通りに胎嚢や心拍が確認できない場合もある。けれども、目安が順調に確認できるようであれば、妊娠が継続する可能性が高くなるという。


特に受精の過程がある程度見えている体外受精では、目安の数値が気になるのだ。妊娠判定以降、検索魔となり、何週でどのくらいの状態であれば問題ないのか、hCG(妊娠中に出るホルモン)の数値は何週でどのくらいなのかを調べまくった。



早い人は5週でつわりの兆候が見られるというが、私は明らかなつわりを感じることは少なかった。いつもなら生理前後にチョコレートなど甘いものが食べたくなるのだが、妊娠時はまったく違ったくらい。あまり好きではないご飯を中心に、とにかく炭水化物を欲した。食べても食べてもお腹が空き、つわりの定番である吐き気はほとんどない(これはつわりの一種である「食べづわり」だと後に判明)。「本当にお腹に命が宿っているのだろうか?」という不安はつきなかった。


また、両卵巣に鈍い痛みがあるのも気になった。何より心配だったのは、内膜症と子宮腺筋症が妊娠経過にどう影響を及ぼすのか。幸せなマタニティライフなどは自分とは縁遠い出来事で、毎日不安でたまらない日々を過ごしていた。妊娠前に憧れていた、マタニティやプレママ関連の雑誌を手に取るのも怖かった。もし、調子に乗って喜んだりしたら、この幸せは、私が手にした命はどこかに行ってしまうかもしれない……。


私がこんな調子だったから、妊娠が判明しても夫も諸手を挙げて喜ぶことはなかった。いつもと変わらない日々を過ごし、病院に行ってエコーで命があることを確認し、安心する。そんな日々が続いた。


そして運命の妊娠、6週目。今日は心拍確認の日。エコーで映し出された、小さな丸がチカチカ点滅している!ドクターからは、「七変化さんわかる?赤ちゃんは元気に動いているから、もう大丈夫だよ」の一言。妊娠が判明してから11週までは驚くほど経過がよく、移植した胚から、生命力の強さを感じさせられていた。


「あなたは腺筋症があるから、念のためNICUのある病院で出産したほうがいいね」。それまでお世話になったこのクリニックは、当時は分娩にも対応していたため、できればここで出産もしたかった。しかし、やはり一筋縄ではいかない、私の子宮……。


結局、自宅から一番近くのNICUのある市中病院に転院し、そこで出産することに決まった。優しいドクターの笑顔に見送られ、お世話になったクリニックを後にしたのだった。



転院後、妊婦は特に問題がなければあまり通院しないことを知った。不妊治療専門病院でのきめ細やかな対応に慣れてしまっていた私にとって、市中病院の産科は少し冷淡に感じられるほど。看護師やスタッフの気配りを含め、不妊治療専門クリニックは細かい配慮がされているのだとあらためて身にしみたものだ。


30代中頃から婦人科に通い、治療を行ってきた私だが、妊婦時代のことは実はあまり記憶に残っていない。20週くらいに、希望者のみに行われる胎児スクリーニング検査を受けたことだけは、覚えている。妊娠中も、本当に子どもが宿っているのかどうか、未だに信じられず、通常の超音波検査より詳しく胎児の状態を見ておきたいと思ったのだ。


日本国内における人工妊娠中絶手術は法的に22週までしか認められていないため、この時期に胎児スクリーニング検査が設けられているのだという。私が妊娠した頃は、新型出生前診断(NIPT)についても現在ほど議論が進んでおらず、まだまだ受けられる人は限られていた。そこで、赤ちゃんの状態に何らかの不安がある人は妊娠15~18週に羊水検査を受けるのが一般的となっていた。


私は高齢(38歳)であり、ART(生殖補助医療)を経て妊娠した私には、羊水検査の話があるのかと勝手に思っていた。しかしそのような話はなく、胎児スクリーニング検査についても自分から医師に確認したほどだ。出生前診断についてはさまざまな意見があり、人によって考え方も異なる。迷う気持ちもあったが、子宮に病気を抱える私に、羊水検査はリスクが大きいと思っていた。羊水検査は受けず、胎児スクリーニングで何か気になることがあったら、夫と話し合わなければならないと。


そんな覚悟で臨んだ胎児スクリーニング検査だったが、初めて会う医師が担当し、すぐに終了。口数の少ない女医は一言、「健康ですよ。女の子かも知れませんね」と。いつも診察してくれる担当医もエコー画像を見ながら、「ついていない」と話していたので、女の子だ!と何だか泣きそうになった。夫に話すと、「男の子がよかったな、でも元気でひとまず、ほっとしたね」と。



赤ちゃんは週数ごとに設けられている大きさの基準値をなんとか上回るくらいだったが、順調に育っていた。お腹が大きくなるにつれ、ひきつれるような痛みを感じるようになっていった。常に生理痛のような。担当医によると、腺筋症によるお腹の張りだという。腺筋症を持っている妊婦は、流産や早産のリスクが高くなる。子宮は妊娠で大きく膨らむ必要があるのに、腺筋症があると伸び切れないことが関係していると医師からも注意を促されていた。


また、胎盤の位置にも少し問題があるようだった。胎盤が正常より低い位置(膣に近い)にあり、胎盤が子宮の出口を覆っている前置胎盤は、妊娠中期から後期にかけて大出血を起こすおそれのあるハイリスクな妊娠とされている。私の場合、前置胎盤までは行かないが、低めの場所に胎盤があり、出産時までに改善しなければ腺筋症のリスクも鑑み、予定帝王切開になるかもしれないとのこと。


こういったリスクを抱え、「ハッピーマタニティライフ」を送るのは難しかった。お守り代わりに張りどめの薬を持ち歩き、もし何かあったら……と考え、いつも緊張していた。それでも、少しずつ出産の準備をし、女の子用のベビー用品を揃えていたのだった。


結局、胎盤の位置は微妙な場所のまま。自然分娩もできなくはないが、帝王切開のほうが安全だという医師の助言で、37週0日の正期産に入った早々に、(いつ生まれてもおかしくない時期)予定帝王切開が決まった。小児科の医師とも連携し、手術を行うとの説明だった。


そして予定日よりひと月前。私は出産のため入院した。




(文/七変化)

※この連載は個人の体験です。治療や薬の処方などに関しては必ず医師に相談してください。

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