妊活ダイアログ 七変化さん Vol.5

この企画では、経験者の声、お医者さんの言葉、

妊活や不妊治療にまつわるアレコレを綴ります。


どんな未来が待っているんだろう。

あなたのいろんな未来の可能性を見つけてみてください。





いよいよ高度治療のステップアップへ



病院に出かけた後、忙しい夫と話をした。

「何だか……私って他の人より子宮が大きくて、卵巣が腫れているみたい」


夫は、私より物事を理解する能力に長けている人間だと思っていたけれど、女性の身体についてはやはりうとい(当たり前なのだが)。今後治療を予定していて、「治療中の女性の身体について、自分の夫はわかってくれるのかな?」と不安に感じる人もいるかもしれない。ただ、たいていの男性は女性の身体について「知らない」と思っていたほうがいい。


毎月1回生理が来て、結構しんどそう……くらいの認識はあっても、排卵のシステムを詳細に理解することや、激しい痛みなど、細かいところまで共感するのは、男性にとっては難しいことなのだ。だから話を聞いてくれるご主人なら、それでよしとすべきで、がっかりしないでほしい。


話が脱線してしまったけれど、理解力の高い夫でも私の話に頷くだけだったのだ。(この人、わかってないなー)と思いながらも、「もし、高度な治療が必要だったら、ステップアップしてもいいかな?もちろん貯金と相談してだけれど」と伝えた。「もちろん、いいよ。とにかく納得できるまでチャレンジしてみよう」と夫。これも実は、不妊治療をよくわかっていないゆえの、答えだったのかなと後になって思う。



病院では不妊治療に必要なひと通りの検査がマニュアルのように決められており、順にこなしていくようになっていた。検査を進める途中で、1周期も無駄にしないため、タイミング法や人工授精(AIH)を並行して進める。何度か人工授精にトライしたが、やはり妊娠しない。


人工授精については、ネーミングから「すごく高度な治療」と思われがち。しかし精子を人為的に体内に注入する方法だから、夫婦間の営みとそう変わらない。だからこそハードルが低く、気軽に行う人も多いのだが、そもそも私のように卵管通過障害の疑いがあれば、あまり意味がないことになる。そこで、30代も後半に近づいていたため、当時話題となっていたAMH(抗ミュラー管ホルモン)検査を自費で行うよう勧められた。


AMHは発育途中にある卵胞(卵子とそれを取り囲む体細胞、袋のようなもの)から分泌されるホルモンをいい、血液検査をすれば卵巣内にこれから発育する卵胞があるのかどうかがわかる検査。この値は年齢の平均値がだいたい判明していて、それより低いか高いかで卵巣機能の現状がわかるという。生まれつき決まっているもので、改善することはできない。


正直この検査については、私は楽観視していた。これまで女性ホルモンに悩まされ続け、過剰な生理痛に悩んだ自分は、きっと卵巣の働きが良すぎるのだと考えていたのだった。


受けた検査結果は、驚くほど低い値だった。自分の年齢の平均よりかなり低い。


AMHの指数は、今でこそ排卵誘発の補足的なデータ、治療のステップアップを促すものとしての検査として知られ、過剰に意識するものではないという認識になってきた。ただ、私が治療を開始した時は、AMHが低い=妊娠確率が低いという受け止められ方、卵巣機能が遠くない未来に低下するという意見も少なからずあったように思う(それが医学的に正しい、正しくないではなく)。私も同様に、相当落ち込んだ。


初診で出会ったドクターは「確かに低いけれど、あくまで参考にして。まだまだ可能性はあるよ。ただステップアップは早いほうがいいかもね」と言った。もう、迷わない。夫と相談し、体外受精に進むことを決めた。


遠方に暮らす父母には治療の経過を報告していた。地方に暮らす保守的な父母にとって、高度生殖医療にはかなり抵抗があったはずだ。しかし、何も言わずに背中を押してくれた。「後悔のないようにね」と。


体外受精を行う決意をした私達だが、ネックはやはり私の卵巣だった。排卵誘発を行えば、いまよりさらに卵巣が腫れ、内膜症の悪化が予見された。内膜症の軽減と体外受精は、まったく逆の治療法を行う必要があるのだ。そこで、まずは数カ月生理を止め、自前の女性ホルモンを止めた上で、薬でガンガン排卵誘発するウルトラロング法を選択することに。


悲しい結果ばかりが判明する中、新しいチャレンジに進める喜びは大きかった。しかし、自分のホルモン分泌を止め、生理を抑えるというのはなかなかきつかった。更年期のような症状に悩ませられたり、原因不明の腹痛や不調があったりする日々。生理を止める作用を持つこの薬は、劇薬指定をされるほど強い作用を持つ薬なのだ。



数カ月の注射の後、無事生理が止まり、多少の改善がみえたところで今度は排卵誘発を行う薬を投与する。ホルモンを抑えたところに、今度は排卵を促すのだから、当然多量の排卵誘発剤を投与しなくてはならない。この注射は筋肉注射で、とても痛い。毎日多量の排卵誘発を行い、卵巣が急激に働き、ポコポコっと湧き出す?ような痛みを感じる。


体外受精では、自然排卵に近づく大きさまで卵胞を育て、今度は一気に排卵を促す注射(薬剤)を投与し、排卵するギリギリのところで採卵することになる。しかし、複数育った卵胞をほぼ同じ大きさで排卵できるように育てるのはなかなか難しいのだ。小さすぎると受精に適した卵子が採取できないし、大きすぎても×。1つが排卵することで他の卵胞に影響を及ぼし、結果が伴わないケースもある。繊細で緻密な作業で、経過観察も欠かせない。そして何より、薬の効きを含め、個人差が大きい治療なのだ。


「そろそろ、卵胞の粒が揃ってきたから、採卵日を決めましょう」

今回のロング法はかなり強めに自前のホルモンを抑えているので、スケジュール管理は比較的容易なのだった。初回ということもあり、何が何だかわからないまま、とにかく初採卵の日を迎えた。



入院患者が入るようなベッドのある部屋で順番を待つ。そして手術室へ。

本格的な手術を受けたことのない私にとって、恐怖心しかない。


そして内膜症がひどく、癒着も予想されるため、担当の医師から、採卵の処置自体が、内膜症のない人よりも大変だと聞いていた。私もかなり痛みを感じるようだ。そのため、静脈麻酔は不可欠だった。


麻酔と採卵の痛みで、暴れる患者もいるらしく、手足を拘束されて採卵がはじまる。

怖い、怖い。


麻酔で意識が遠のく中、子どもがほしいと考える間もなく、怖さだけが私を支配し続けていた。




(文/七変化)

※この連載は個人の体験です。治療や薬の処方などに関しては必ず医師に相談してください。

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