妊活ダイアログ 七変化さん Vol.2
この企画では、経験者の声、お医者さんの言葉、
妊活や不妊治療にまつわるアレコレを綴ります。
どんな未来が待っているんだろう。
あなたのいろんな未来の可能性を見つけてみてください。
排卵日に合わせて夫婦生活を行う、「タイミング法」のため産婦人科を訪れたけれど
突然だけれど、生理や妊娠のしくみについて皆さんはどこまで知っているだろうか?
現在40代の私は、小学3年生くらいで、女子だけがクラスに集められ……、生理や赤ちゃんについて何となく説明されたのを記憶している。今はどんな風に教わるんだろう。
でも、何ていうのか「教わった」ことってあまり記憶に残らないし、その当時は「とにかく避妊しないと子どもができますよ」という話がメインで、私も「避妊しないでセックスするとすぐ赤ちゃんができるんだ!」くらいの印象だった。だから今も、「女子だけの授業」の内容はよく覚えていない。
そう、男女がセックスすれば、すぐ赤ちゃんを授かるんだ。
心のどこかに、そんな思いが根づいていたからこそ、子どもができない現状を受け入れるのは難しかった。
赤ちゃんがほしい。強くなるその思いを抱え、持て余していた頃、夫から「病院に行ってみよう」と提案される。
ただ、ちょうどその時、私達夫婦に大きな環境の変化が訪れようとしていた。
私の勤務先の閉鎖が決まり、さらに夫は新たな仕事を得て東海地方へ転居しなければならなくなったのだった。この時私35歳、夫32歳。病院へいくのはお預けとなり、まず引っ越しを進めることに。
移り住んだのはのどかな田園地帯。ただ電車で数駅先に、大きな都市があり、生活には困らなかった。
それまでずっと働いていた私は、専業主婦となり、新しい仕事に夫は多忙を極めた。2人とも、縁もゆかりもない土地に住むストレスがたまり、夫婦生活どころではない。
「とにかく夫婦の生活を持たなければ」と思いつつ、帰りの遅い夫とすれ違いの日々が続く。これではますます私達に赤ちゃんは来ない。
仕事を辞めて時間に余裕が生まれた私は、近所の産婦人科を受診することにした。治療内容に「不妊相談」があったからだ。
軽い気持ちで、クリニックに一歩足を踏み入れて、驚いた。
だって、これまで訪れたどの婦人科よりキラキラしていたから。
壁に飾られたポスターも「マタニティヨガ」の案内だったり、お腹の赤ちゃんの様子が見られる「4Dエコー動画」の記録についてだったり……。
産科があり、分娩に対応しているとこうも違うんだ。
お腹の大きな妊婦さん、付き添うご主人、皆、幸せに満ち溢れている。
新しい命が生まれてくるまぶしい場所。
私にもこの人達と同じ気持ちになる日、立場に立てる日が来るの?
「あぁ、場違いだな」
そんな日が来るとは思えず、何だか後ろめたい気持ちにすらなった。
ここへきてよかったの?
悶々とした気持ちでいたとき、ちょうど「25番の方、診察室へどうぞ」の声。
私の番だ。
生理周期を記した表と、基礎体温を記した表を持参していた。
基礎体温とは安静時の体温で、本来は寝ている時の体温を意味するもの。
ただ寝ている最中には測れないため、起床してすぐに測定しなくてはならない。
そして、専門の婦人体温計を舌の下に入れて測る。
基礎体温の存在、そして生理周期の中でこれほど基礎体温が上下することも、妊娠を深く望むようになるまで知らなかった。「生理があれば妊娠できる」という程度の知識しか持っていなかったからだ。
「基礎体温や生理周期を見る限り、何の異常もありませんよ。きっとすぐ授かるでしょう」
優しそうな年配の医師はそういった。
今から考えると、本当に無責任な発言だと思う。大した検査もしていないのに。
ただ、本格的な不妊専門のクリニックでなければ、案外こんなものなのだ。
悩んでいる患者の心を和らげる意味もあるのかもしれない。
「なんだ、私の体はどこも悪くないんだ。ほらね、やっぱり大丈夫」
医師のお墨付きをもらって、私の心は軽くなった。
そのクリニックでは、まずタイミング法を実施することになった。
基礎体温と超音波検査(エコー)などから総合的に排卵日を予測し、妊娠しやすい前後の日にセックスを行うというもの。
赤ちゃんがほしいと望んだら、まず行う不妊治療の「基本のき」でもある。
でも人間の体は、予測不可能。エコーで排卵間際の卵子があったとしても、いつ排卵するかを正確に割り出すのは難しい。排卵しそうでしない、排卵しないことだってある。
人は妊娠しにくい生き物なんだ。
あくまで卵子と精子が「出会える」のが前提の方法。卵管などに問題があったり、子宮内膜症などで卵巣にトラブルがあったりするとそもそも卵子と精子は出会えない。また、精子そのものに問題があるケースも少なくない。自然なセックスとほぼ変わらないタイミング法は、そもそもの妊娠率も高くないのだ。
私は、自分達夫婦が妊娠できないと思いたくなかった。不妊治療を考えながらも「できる限り自然に近い方法で」という思いが強く、タイミング法ですぐに授かると考えていた。忙しくて話す時間が取れなかったが、主人も同じ気持ちだったと思う。
家から近いそのクリニックには、排卵日が近づくごとに通い、多忙な日々のタイミングを見計らってセックスを続けた。そんな日々が半年続いたのだった。
それでも毎月生理はやってくる。
タイミング法が上手く行かないこともあり、何度目かにhCGの注射がプラスされた。
hCGとは、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin)という胎盤から抽出したホルモンで、排卵しそうな卵子(卵胞)の排卵を促進したり、排卵後の黄体を維持したりする役割を持つ。ちなみに妊娠検査薬に反応し、陽性の線が表れるのもこのhCGによるものだ。
排卵を促すために打つこのhCGの注射は、私には苦痛でしかなかった。明確なエビデンスがあるわけではないのだが、私に限っては経血の量が増え、生理痛そのものも、かなりひどくなることが多かったからだ。
注射の直後から下腹部が痛み、常にガスが溜まる不快な状態になる。
後で判明する子宮内膜症の影響もあるのかもしれないが、この時点ではこのクリニックのどの医師にも指摘されたことはなかった。
どんどん生理痛や生理がひどくなるのに、妊娠する気配は一向にない。
「おかしいね、どこも悪くないのにね」
苦しむ私に対して、医師は新しい治療法を提案することもない。
診察してくれる医師は異なる場合が多く、微妙な指示の違いも気になった。
この病院に通い続けていていいのだろうか?
携帯電話で近所の産婦人科を探しては、躊躇する日々が続いていた。
当然、毎月の生理を迎えながら。
(文/七変化)
※この連載は個人の体験です。治療や薬の処方などに関しては必ず医師に相談してください。
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