妊活ダイアログ ワタナベミユキさん Vol.1

この企画では、経験者の声、お医者さんの言葉、

妊活や不妊治療にまつわるアレコレを綴ります。


どんな未来が待っているんだろう。

あなたのいろんな未来の可能性を見つけてみてください。




初めまして。ワタナベミユキと申します。

現在34歳。12歳年上の主人と3歳の息子の3人で暮らしています。

私は結婚当初、何も疑う事なく「結婚・妊娠・出産」を普通の流れだと思っていましたが、私はその“普通の流れ”をすんなりと踏むことができませんでした。妊娠出来る事、出産出来る事、全てが本当に奇跡で、思っていた“普通”は何一つありませんでした。

私の経験が少しでも誰かの糧になればと思い、この度コラムを執筆させていただきました。




うらぎりの子宮 〜結婚式10日前に病を知った〜


5年前、28歳の私は12歳年上の彼と家族になった。


当時、雑貨の商品企画・製造販売をする企業に勤めていた。

小さな企業だったので、社員一人が抱える仕事量は多く、毎日の残業は当たり前で、繁忙期には休み返上で出勤し、印刷物のチェックの為印刷会社に寝泊りする事もあった。

プライベートなどあってないようなものだったが、働くことは嫌いではなかった。



そんな仕事漬け生活の中で、仕事で知り合った彼と結婚する事になった。


2年間付き合ったが、お互いに仕事が忙しく、交際していた間も『今週は?』と絵文字なしのコピペメールを、週末に送るのが唯一のやり取りだった。

しかもLINEではなくショートメール。そしてお互い予定がなければ会う。

そんな感じだったので、ギュッと縮めるとおそらく5ヶ月ぐらいの交際期間なのではと思う。


とにかくマメではない私と主人には、この距離感が丁度よかった。

「おはよう」から「おやすみ」まで連絡をするなんて3日と持たない。

記念日なんてのも適当で、お互いの誕生日を西暦含めてスッと言えるようになったのは最近である。

結婚記念日ぐらいは忘れないようにと、メディアなどでよく取り上げられる“11月(いい)22日(ふうふ)”に籍を入る事にした。これで、朝ニュースを見れば『今日はいい夫婦の日ですね〜』と、どこぞのアナウンサーが勝手に教えてくれると踏んだ。


お互いこのぐらい淡白な人間なので、“12歳”という歳の差も全く気にしていない。



結婚を決めた当初、遠慮がちに歳の差を気にしていた家族や周りも次第に慣れ、ソレについて何も突っ込まなくなった。


しかし「あるひとつの事柄」については、デリケートな問題だからおおっ広げには言わないが、皆んながチラチラと気にしている空気を出しているのは分かっていた。


“子供”。ずばり妊娠についてだ。

特に28歳の私側の周りには、12歳年上40歳オーバーの主人を、心配しているというパフォーマンスをとりながら、妊娠する事への障壁として見る人もいた。

それは、2人の間に子供が授かれるのかという事や、最短で出産しても子供が20歳の時には父親が60歳過ぎだといった事など、健康面・体力面・経済面色々な観点から見たものだった。


しかし、私達より歳の差がある夫婦や、もっと高齢で子供を授かる人も大勢いる。

一度心配する親族に、「篠原涼子と市村政親だってそうじゃん。」と例を挙げた。

だが「それはあの2人だから。」と言われた。

言わんとしている事はわかる。私・主人 と 涼子・政親は、容姿をはじめ環境・習慣どれをとっても比較対象としては不釣り合いなのだ。

共通点はヒト化ヒト属という分類と性別だけ。


ただ我々本人も、それについて何も話さなかった訳ではない。

お互い子供は欲しいと思っていたので、5月に控えた結婚式・新婚旅行が終わったら、すぐに妊活をしようと決めていた。半年たって妊娠できなければ、躊躇せず病院に相談してみようとも。


そうして私達は他人の記憶を当てにした11月22日に籍を入れた。



入籍後間も無く、私は勤めていた会社を辞めた。

理由は「忙し過ぎてほぼ家にいないから」。

淡白な2人だが、結婚してパートナーとほぼ会わないというのは、決して良い事ではないという結論だった。


しかし、激務生活からいきなり何もしない生活というのは慣れないもので、1週間もすると家事だけの生活に飽きた。

結婚式は翌年の5月。結婚式の準備もあったが、淡白人間達は基本的に「おすすめはどれですか」「どのあたりが人気ですか」の2種類しか発言しない。サプライズなんかも企んではいないので、準備もすぐに終わった。


そんな時、タイミングよく知人から会社を手伝って欲しいと連絡がきた。

「また働ける」と思うと、途端にこの暇な生活を手放すのがもったいなくなり、「5月の結婚式と新婚旅行が終わってからなら行ける。そして残業はしない。」という何とも自分都合な条件を出した。

ありがたい事にこれを呑んでくれ、全てが落ち着いたらまた働けることになった。


まさかこれがきっかけで、自身の絶望的な事実を知る事になろうとは、この時は思ってもみなかった。



「じゃあ健康診断だけ個人で受けといて。」

と、お世話になる予定の会社に言われ、健康診断を受ける事に。


人妻になって記念すべき初検診!妊活の予定もある!

という訳で「よし!ここは奮発(?)して、癌検査もつけるか!」とおかずを1品加えるノリで乳がん検査・子宮癌検査も加えた。


1年ぶりの健康診断。今まで受けたものと何ら変わらない。

一度、仕事のストレスで心臓が痙攣するという病気を患った事はあるが、今や新婚で仕事をしていない私には、何のストレスもなく心身共に健康そのものだった。

よって、一番気にしているのは体重だった。


新婚健康モードの私は診断書が家に届くと、恐れる事なくビリビリと雑に開封し、スーパーのチラシを見る感覚で目を通した。



5年たった今でもあの文字を覚えている。


「子宮癌検診  判定E 要精密検査」


一瞬手が冷たくなった。Eなんて判定初めて見た。

理解ができずに口に出して「エー・ビー・シー・ディー・イー……」とEがアルファベットの5番目である事を指を折って確認した。だからどうなのだ。


ただ直ぐに、「いや癌だったら癌って書くよな。」と気持ちを上書きした。普通ならこの時点で、あわわわ……!となるが、結婚式準備で発動しなかった、マリッジハイがここで発動したのか、意外と落ち着いていられた。

だから主人にも詳しくは教えなかった。



後日、子宮癌検査を行っている産婦人科を調べ再検査へ。

女性なら馴染みのある“産婦人科のあの椅子”でスタンバイしていると、年配の男性が「はい、じゃあね。検査しまーす……。はい、終わり。」と、愛想0%の流れ作業で直ぐ終わらせた。

あの間抜けな状態を前に愛想を振りまかれても困るのだが、こっちは小っ恥ずかしい格好なのだから、少しは気持ちをほぐしてくれてもいいのではと思ってしまう。


検査結果を聞くために診察室に入った時、初めて愛想0%先生の顔を見た。

白髪で小柄。おじいさんというよりはおじさまと呼ぶ方がしっくりくる、シュッとして隙がない60代ぐらいの男性だった。


そして、こんな時も愛想0%。


「はい、あなたね。子宮頸癌(しきゅうけいがん)です。」



結婚式10日前の事だった。




(文/ワタナベミユキ)

※この連載は個人の体験です。治療や薬の処方などに関しては必ず医師に相談してください。

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