妊活ダイアログ ワタナベミユキさん Vol.4
この企画では、経験者の声、お医者さんの言葉、
妊活や不妊治療にまつわるアレコレを綴ります。
どんな未来が待っているんだろう。
あなたのいろんな未来の可能性を見つけてみてください。
うらぎりの子宮4 〜さらに追加される衝撃の事実〜
結婚式が終わったら、直ぐに治療に入る運びとなった。
結婚式当日。
両親に癌であることを告げてから、この日初めて直に顔を合わせた。
式場の廊下で会って早々に「大丈夫なんか?」と父に言われた。
正直大丈夫かどうかは自分でも分からないが、「大丈夫。」と答えるしかなかった。
両親は支度を終えた主人を見つけると、「申し訳ない。」と主人に頭を下げた。そして「迷惑をかける。」とおそらく治療費が入っているであろう封筒を差し出した。
主人は「いえ。いいんです。気にせずに。」と、封筒を受け取らずに一礼した。
私は『今日は悲しくなりたくない・泣きたくない』という思いから、なるべく思考を殺して、そのやりとりを少し離れた場所で黙って見ていた。
式が始まると暗い気持ちが顔を出すこともなく、とても幸せな時間を過ごせた。
親しい人達に祝って貰えるのは本当に嬉しく、地方の友人・親族にいっぺんに会える機会なんて滅多にないので、とても楽しかった。
結婚式を無事に終え、数日はその余韻に浸っていた。
S N Sに式の写真を投稿し、そこに送られてきた祝いのメッセージを読んでは、また嬉しい気持ちになっていた。
しかし、同列に流れる同級生の子供や妊娠の投稿を見ると、一瞬で心にモヤがかかった様になる。
自分は祝ってもらっているのに、知人の出産や妊娠・子供に対し、素直に「よかったね!」「かわいいね!」と反応できなかった。
#妊活#妊娠#おめでた#マタニティフォト#マタニティライフ#妊娠○ヶ月#baby#newborn……
こんな全世界のハッシュタグが眩しくて、羨ましくて、妬ましい。
SNSを見ると見た分だけ疲れる。
しかし、見ない方がいいと分かっていても、見てしまう。
隣の芝が気になってしょうがない。また、自分は辛くない・可哀想じゃないと思う為に、#不妊治療#闘病 などの投稿を見て、『自分はまだ望みがある方だ。』となんとも失礼な方法でモチベーションを保っていた。
数日後、いよいよ治療が始まった。
私が行った治療は、癌患部となる膣内を洗浄し、そこに直接薬を染み込ませたガーゼを当てるというものだった。このガーゼは丸一日子宮内患部に当てたままで、翌日に交換となる。つまり、休院日以外は毎日通院する必要があった。
毎日の通院も堪えたが、一番キツかったのが“膣内の洗浄”である。
洗浄というのだから、液体で洗い流すのかな?と考えていたが、全く違った。
カーテンで仕切られていたので真実は分からないが、私の体感では、子宮をデッキブラシでゴシゴシと擦って、膜を掻き出される感じだ。
とにかく痛いし、違和感が半端ではない。
これをほぼ毎日。……もはや拷問だ。
ほぼ毎日通ったのに、あれから5年という月日が経ったせいか、辛くて脳が記憶を消したのか、治療内容の詳細はもう覚えていない。でも洗浄されるあの嫌な感覚は、今でも忘れられない。
そして前回、先生が言っていた治療の“1セット”について。
治療を始めて1ヶ月毎に何らかの数値を測る検査が行われる。そこで基準数値を超えていなければ、その検査はクリア。それを3回連続クリアしなくてはいけない。
連続でなければ意味がなく、1回でもアウトならまたやり直しである。
【1セット=3回の検査】という事らしい。
後で知ったのだが、この治療を行っている病院は少なく、遠方からわざわざこの病院に通っている人もいるようだった。
先生は愛想0%だが、どうやら凄い人のようだ。
休院日以外は毎日通った。
先生とのやりとりも慣れ、カーテン越しに愛想なく言われる「はい、始めます。はい、お終い。」に対して、私も「はい。どーも。」と対抗するかの様に同じトーンで返す。
「今日は暑いですね。」「体調どうですか。」「どんな感じですかね。」
ほぼ毎日通っているのに、こんな会話を交わした記憶はない。
新しい職場に通う様になっても、変わらず通い続けた。
定時に直ぐ会社を出て、まっすぐに病院に向かう。そうすれば最終受付時間ギリギリに滑り込む事ができていた。
仕事を終えた同年代の女性が、子供のお迎えや恋人とのデートの為に、早歩きで駅構内を歩いているのに、私は子宮をデッキブラシで擦られる為に急いでいる……そう思うと、毎日とても虚しくなった。
仕事も始めたし、辛い治療もサボってないし、家事もそれなりにこなしている。自分では『こんなにも頑張っている!』と思っていた。
しかし神様には『この程度の頑張り』と思われていたのだろうか。それとも、前世での行いがよっぽど悪かったのか……。
ある日、いつも通り治療に行くと、またしても衝撃の事実を伝えられた。
「血液検査で分かったんだけど。君には、ウイルスを撃退するDNAがないんだ!」
久しぶりにカーテン越しではない先生を見たかと思えば、開口一番にこう言われた。
前回簡単に説明したが、子宮頸癌の主な発症源であるH P V(ヒトパピロマーウイルス)は、感染しても9割の人が自己免疫力で自然排除する。
それが私の場合は、そもそもウイルスを自然排除するDNAを生まれつき持ち合わせていなかったのだ。
つまり感染すれば必ず子宮頸癌を発症する体だった。
「こんなの初めてだよ。」と初めての案件に、さすがの先生も少し興奮気味だった。
そして「DNAがそうなのだから、兄弟がいたら直ぐに検査を受ける様に伝えなさい。男でも。」といつもより強めの口調で言われた。
主人・両親に次いで、姉と弟にまで迷惑をかける羽目になったと消沈した。
今考えると、姉と弟に直接迷惑をかけた訳ではないが、こんなに立て続けに“受け入れがたい事実”を伝えられると、もう“自分のせいだ”と思う様になっていた。
そして、『あ……、子宮のせいじゃなかった。』と癌になった事を子宮のせいにしていた事を思い出した。
不妊・流産を起こしやすい姿をしていたが、癌になったのは子宮のせいではなかった。主人に続き子宮にも濡れ衣を着せていた。
『すまない。子宮。』
(文/ワタナベミユキ)
※この連載は個人の体験です。治療や薬の処方などに関しては必ず医師に相談してください。
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