わたしの引き出しの奥から Vol.2 植物療法士 南上夕佳

かっこよく生きたいわたし。

誰かの憧れでありたいわたし。

頑張ることに疲れたわたし。

これから出会うのは、迷いながらもまっすぐに、自分らしい人生を重ねている女性たち。

「わたし」とは、彼女であり、あなた自身です。

彼女たちの言葉が、わたしらしい明日を生きるためのきっかけになりますように。


やけどをしたらアロエを塗ったり、風邪を引いたら生姜湯を飲んだり。昔から生活の中に取り入れられてきた植物の力。フランスではもっと一般に広がっていて、街にはエルボリストリーと呼ばれる薬草専門の薬局がみられる。そんなフィトテラピー(植物療法)の先進国であるフランスの植物療法普及医学協会から日本で唯一の認定を受けているルボアフィトテラピースクールで講師をする南上夕佳さん。

まだまだ日本では広く認知されているわけではないフィトテラピー。今回の取材に対して、「フィトテラピーをみなさんに知っていただくための機会をくださってありがとうございます」と逆にお礼の言葉をくださった彼女。自身初の著書「自然ぐすり生活」も発売され、スクールでの講師の仕事以外でも、セミナーやイベントなど、たくさんの人の前に立ってフィトテラピーの魅力を伝えている。そんな忙しい中でも変わらない優しい笑顔に、数多くの女性が惹きつけられ「彼女のようになりたい」とフィトテラピーの世界に足を踏み入れる女性も少なくないのではないだろうか。


―植物療法士になる前は、どんなお仕事をされていたのですか?


「ヘアメイクに関わるお仕事をしていました。四年制大学に通っていたのですが、仕事を決めるってなった時に、大学で学んだこととは関係のない美容のお仕事がしたいって思ったんです。それで、ヘアメイクさんのアシスタントのアシスタントぐらいの感じから働きはじめ、現場に行って勉強させてもらっていました。あと、まつ毛エクステは当時、美容師の資格がなくてもできたので、ヘアメイクの仕事の合間はそういった仕事で全部埋めて、休みなく働いていましたね。忙しかったけど、すごく楽しかったです」


―南上さんの著書「自然ぐすり生活」の中でも触れられていますが、忙しい生活が続いて、お身体を崩されるんですよね。その時は「辞める」という選択にすぐはならなかったのですか?


「体がちょっとおかしくなっても、仕事は辞めませんでした。休む事もあったんですけどそれでも続けていて、どんどん不調はエスカレート。外にも出られないくらい体調が崩れてから、やっと辞める決心がつきました。それまでは、頑張って、鞭打って働いていましたね」

―一心不乱に働けるのも自分が若いうちの今しかない、というか。


「20代ってそういう感じですよね(笑)周りのみんなも頑張っているし、上には自分よりできる人がたくさんいて、目標もあって、『わたしも頑張らないと!』っていう時期だから。ちょっとした不調とかってほっときがちだし、そんなことを一つ一つ言っていたら仕事なんてできないですよね。当時のわたしはそういう考えだったので、身体のことは全部放っておいてがむしゃらに働いていました」


―具体的にはどんな症状があったのでしょうか?


「まずは、全身の肌の乾燥、目や口の粘膜が乾燥してくるというところから始まりました。髪の毛もパサパサになって抜けてきて。あとは夜眠れなくなったり、寝汗がひどくなったり。その間、生理も全くきていませんでした。不安を感じてはいたんですが、忙しいからそこまで真剣に考えずにいたら、人に会うのも億劫になってきて。無理して頑張るんだけど、徐々に外にも出たくなくなっていきました。病院には行ってみたものの、お医者さんからは『ストレスが原因だから休みなさい』としか言われなくて、でも結局休めないからよくならない。皮膚の乾燥に対しては保湿剤が出るけど、対症療法だから塗ったその時は肌の保湿ができても、根本的に良くなっていくことはありませんでした」

―そして、フィトテラピーと出合うんですね。


「その当時、アロマテラピーは好きで結構勉強していたんですが、フィトテラピーって聞いたことがありませんでした。不調の原因を自分で突き止めたくて、いろんな本とか、WEBの記事を読んだりして調べる中で、ある植物療法士の方のコラムを読んだんです。『フィトテラピーってなんだろう?』と思って調べたらこのスクール(南上さんが現在副代表を務めるルボアフィトテラピースクール)が出てきて。『ああ、これだ!』って。直感で『治る気がする!』と思いました。その当時わたしは20代だったんですが、閉経した50代と同じくらいの女性ホルモンの値と診断されていたんです。どうにか自然なもので治療できないかと方法を探していたので、直感を信じてこのスクールに通いだしました。1年くらいかけて学んでいくのですが、学びながら試したら少しずつではありますけど良くなっていったんです。たぶん、フィトテラピーがわたしの身体に合っていたんですよね。50代の女性ホルモンの値だったのが、徐々に徐々に、実年齢と同じくらいに戻っていって、値が正常になった頃には生理もちゃんと5日間、周期通りできていました。それ以外の症状も、生理が戻ってくるのと同じように良くなっていきました」


―フィトテラピーを生活に取り入れるようになって、何か気持ちの面でも変化はあったのでしょうか?


「若年性更年期になって驚いたのは、感情が何にも湧き上がってこないということでした。医学的に言えば、急激にエストロゲンが下がっているからだと思うんですが、どんなことにも感動しなくなってしまって。例えば、好きなものを食べても美味しいと思えないとか、花を見ても綺麗って思えない。本当に、『わたしどうしちゃったんだろう』と思うくらい、気持ちがフラットになってしまっていたんです。それがフィトテラピーに出合って体調が回復していくと、感じる心が戻ってきて、身体を壊す前より精神的にも安定したと思います。リラックスする時間をもてたり、気持ちをコントロールできるようになったので、前向きに物事を捉えられるようになりました」


―いち生徒として学び始めて、そこから講師、スクールの副代表になるって、すごいステップアップですよね。


「女性的な悩みって、誰に相談したらいいかわからないから、みんな悩みますよね。生理不順だったり、わたしみたいに無月経だったり。若年性更年期障害に悩む女性も増えてきているし、更年期の世代の方々もたくさんいる。『フィトテラピーは、絶対にそういう女性たちの役に立つ!それを伝えたい!』という、使命感みたいなものを感じていました。そしたら当時の先生が、スクールの代表に、とっても熱意がある生徒がいるって紹介してくれたんです。そこから縁あって働くことになりました。はじめはいろいろなお仕事をしました。店頭でのカウンセリングや営業、総務のような事務的な業務まで。色々なお仕事をしたけれど、ずっと変わらないのは『フィトテラピーに関われていることってすごく幸せ』ということです。『フィトテラピーが好き』という思いと、その先にある『それを伝えたい』という夢を見つけていたので、どんな仕事も楽しくてしょうがなかったです」


―このスクールの代表でもあり、日本におけるフィトテラピーの第一人者でもある森田 敦子さんとの出会いは、南上さんにとってとても大きかったんですね。


「まさに、それがターニングポイントですね。多分出会っていなかったら、わたしの人生は全然違うものだったと思います。ずっと森田の背中を追いかけてきましたけど、今は同じ夢を持ち、同志とまでは言えませんが“一緒に”頑張っているという感覚です。わたしが代弁者として、森田の願いや思いをたくさんの人に伝えていきながらも、信じて任せてもらえているので、これからは植物療法士としての“わたしらしさ”を確立していきたいと思っています」


―植物の力が南上さんの身体を癒して、新しい出会いまで引き寄せたのですね。人生を変えてくれたと言っても過言ではないと思います。


「フィトテラピーを生活に取り入れるようになって一番変わったのは、心の声を大事にするようになったことです。それまでは、『周りがこうだからこうしよう』とか、自分の本当に思っていることを我慢していたところがありました。自分の本当の気持ちを言えない場所ってとても多いと思うんです。全部を言っていたら自己中心的になってしまうし、社会で生きていくために周りに合わせなくちゃいけない時もある。でも、『本当はこうしたい』とか『こっちの方が好き』っていう、心の声をちゃんと聞いてあげる時間を作っています。そういう風にしていたら、バランスが取れるようになっていきました。周りに合わせなきゃいけないっていう場面でも、普段から自分を大事にしている時間があれば『それもいいね!』って相手の考えに余裕を持って共感できると思うし、もしかしたら『そっちの方がいいかも?』って新しい可能性に気づけるかもしれない。『わたしらしく生きている』と言えるかどうかはわからないですけど、自分が本当に求めているものとか、本当に好きなものを、しっかり見つめる時間を作るようにしています」


―自分を知るって難しいことですよね。自分の本当の気持ちを言えないというよりも、自分の気持ちは二の次で、周りの人が幸せならそれが一番だと思っている方もいらっしゃると思います。


「多くの女性には自分より大切にしたいと思える誰かがいると思うんです。例えば自分のためだったら料理なんて適当でいいけど、彼が食べてくれるから、子供が食べてくれるから、頑張って美味しいもの作ろうとか。誰かのために頑張れる自分がいるって、すごく素敵なことだと思います。だからこそ、まずその自分がちゃんと満たされているかどうかがすごく大事。漢方の考え方でいうと『気』というものにあたるんですが、気がない状態で気を配ろうと思っても配れないんですよね。例えば、自分の中にカップがあるとしたら、美味しいものを食べたり、好きな人と触れ合ったりして、気持ちが満たされると、どんどん『気』がそのカップに溜まっていく。それが溢れるくらいになってくると、自然と誰かに配りたくなるし、意識せずとも人にも渡ってるはずなんです。大切な人に何かしてあげるために、自分を見つめる時間を持ってあげて、そうすると人が喜んでくれて、またそれで自分のカップも満ちてくる。その循環を大事にしていきたいです」


「1日5分でもいい。自分のことを考えてあげる。それが自分も周りも幸せに生きていくために一番大切なことだと思います」


誰かのために、自分を知って、大切にする。 彼女の優しい笑顔の裏にあったのは、辛い過去を乗り越えて手に入れた、自分を思いやる気持ち。それが誰かに伝わり、また他の誰かへと伝わって、思いやりの連鎖は続いていく。


南上 夕佳(なんじょう ゆか)

植物療法士。ホルモンバランスを崩したことをきっかけに植物療法専門校「ルボアフィトテラピースクール」にてAMPP(フランス植物療法普及医学協会)認定資格を取得。現在は日本における植物療法の第一人者・森田敦子に師事し、ともに啓蒙活動や講師活動を行いながら、自身の体験を生かし、女性のライフステージに合わせた健やかな美しさと幸せをテーマに、老舗百貨店やレストラン、企業で数々のセミナーやカウンセリングを行う。現在はルボアフィトテラピースクールの副代表として講師育成を行うと同時に、女性のパーツケアブランド「INTIME ORGANIQUE」(アンティームオーガニック)のインストラクターも務める。


(取材・文/道端 真美 撮影/長尾 隆行)

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