妊活ダイアログ 夏菫さん Vol.2

この企画では、経験者の声、お医者さんの言葉、

妊活や不妊治療にまつわるアレコレを綴ります。


どんな未来が待っているんだろう。

あなたのいろんな未来の可能性を見つけてみてください。





毎月、妊娠検査薬


もうそろそろだから、いいよね…。

小さく呟いて、妊娠検査薬の箱を開けた。


トイレへ行き、検査をする。そろそろ1分経ったはず。期待しちゃだめと思いながら、裏返していた検査薬を表に返して、結果を見た。ああ、また陰性。


トイレから出ると、ソファに座っていた夫がこちらを見ていた。

「どうだった?」

「うーん、まだみたい」

「ほら、いつもフライングするからー」と笑ってくれる夫に、少しほっとする。


基礎体温を測り始めて、半年。わたしたちは、妊活アプリで通知される「仲良し日」にあわせてタイミングを取り、生理予定日が近くなると妊娠検査薬で確認している。


でも、妊娠判定は毎回「陰性」で、生理は遅れてやってくる。生理予定日から数日遅れるのはざらで、次の生理まで2か月近くかかることもあった。生理不順だという自覚はあったけれど、まさかここまでだとは。


生理が遅れるたび少し期待しては、結果を見て落胆することのくり返し。


だんだんつらくなっていくこの感じ、大学受験を思い出す。模試を何度受けても、志望校の合格可能性はE判定から上がらないことがあった。あのときもつらかったけれど、それでも受験のほうがましだ。妊活は、努力だけではどうにもならない……。


子どもは授かりものだから、あまり気負わずに。

そう自分に言い聞かせて、妊娠検査薬をゴミ箱に捨てた。



2週間経っても、生理はこなかった。


妊活アプリのホーム画面に大きく表示される、「赤ちゃんができたあなたへ」というボタン。

生理が遅れただけで、こんなボタンを表示しないでほしい。妊娠した人はよろこんでこのボタンをタップするのだろうけれど、わたしは見るだけでもつらい。せめて非表示にできるようにして。


心の中でアプリ開発者に訴えながら画面を見ていると、妹から電話がかかってきた。


3歳下の妹は、今年結婚したばかり。仲がよく頻繁に連絡を取っている。いつものような近況報告かと思っていたら、妹は緊張した声で「あのね、実は……」と切り出した。あ、これは、と身構える。


「実は、妊娠したの」


やっぱり。


「おめでとう!」と祝福の言葉をかけると、妹はうれしそうに話し始めた。

すでに病院で心拍を確認できたこと、出産予定日、これからの過ごし方……。幸せそうな様子が電話越しに伝わってくる。いいなあ、と思った。いいなあ、うらやましい。


妹も子どもが好きだから、きっと望みが叶ってうれしいのだと思う。わたしと同じく、毎月のように妊娠検査薬で確かめていたかもしれない。


それでも、”わたしだって” と思ってしまう。わたしだって、子どもがほしいのに。わたしだって、こんなに望んでいるのに。妹はわたしより後に結婚したのに……。


「また詳しくきかせてね、身体を大切に」と言って、電話を切った。このまま幸せな話を聞くのはつらかった。


世の中には「授かり婚」をするカップルもいれば、待っていても赤ちゃんがこないカップルもいる。一人目すぐに妊娠しても、二人目はなかなか妊娠しないという人もいる。


わかってる、わかっているけど……。


と、そのとき、後ろから温かな手が伸びてきて、そっとわたしの頭を撫でた。「妹ちゃん?」と夫が聞く。うんと頷いた拍子に、思わず涙があふれた。


「産婦人科、行ってみようよ」

夫の言葉に、思わず顔を上げる。「産婦人科?」


「そう。一度検査してみよう。手だてがわからないまま過ごすより、見通しが立てば安心すると思うから。それに、生理が定期的に来ないのも、何か理由があるのかもしれない。身体のためにも、調べてもらったらどうかな」


確かにそうかもしれない。今まで、産婦人科に行くほど大ごとではないとどこか思っていた。二人が望めば自然に赤ちゃんができると思っていた。でも、不安を抱えながら待っていても仕方がない。


「もちろん、一緒に行こうね。俺も自分のことをきちんと調べたことないから」


夫のこういうところが好きだと思った。痛みや不安を分かち合おうとしてくれる。将来のことは、きちんと二人で考えるから大丈夫。


わたしたちは、週末に産婦人科へ行くことにした。



土曜日。産婦人科の受付を済ませて待合室に行くと、すでに何組かのカップルがいた。男性の検査もできるからか、ほとんどがカップルで来院している。


2人ずつ座れるソファは間隔を開けて並んでおり、名前ではなく診察券の番号で呼ばれる。配慮が行き届いていることに感心する。いろいろな事情を抱えて、ソファに座っているカップルたちの姿に、自分たちだけではないのだと少し勇気づけられた気がした。


わたしたちの順番が来て、診察室に入った。

妊娠のための検査や治療のステップについて説明を受けた後、ここ半年の月経周期、直近の生理開始日、妊娠経験などを聞かれるままに答えた。一通り話を聞いた医師は、わたしの目を見て言った。


「おそらく、多嚢胞性卵巣症候群かと思います」




(文/夏菫)

※この連載は個人の体験です。治療や薬の処方などに関しては必ず医師に相談してください。

0コメント

  • 1000 / 1000