わたしの引き出しの奥から vol.5 セラピスト 新井佑佳
かっこよく生きたいわたし。
誰かの憧れでありたいわたし。
頑張ることに疲れたわたし。
これから出会うのは、迷いながらもまっすぐに、自分らしい人生を重ねている女性たち。
「わたし」とは、彼女であり、あなた自身です。 彼女たちの言葉が、わたしらしい明日を生きるためのきっかけになりますように。
“therapy”と辞書で引くと“治療”や“療法”と出てくる。単純に傷を癒したり痛みを落ち着けたりする事ももちろんその内だけれど、同時に⼼をも癒す。それがセラピストのお仕事。セラピスト新井佑佳さんは自身で経営するサロン「ayuca」で、日々お客様の身体、そして心と向き合う。
10年以上にわたって、セラピストとしてたくさんの女性たちを癒し、悩みに寄り添ってきた彼女が思う、『本当の美しさ』とは。
―新井さんの過去から少しずつ紐解いていけたらと思います。昔から美容の業界へ進みたいと思っていらっしゃったのですか?
「子供の頃から漠然とあった『美容のお仕事をしている人はみんなきれい』っていう憧れから、美容の道に進みました。何かになりたいという明確な夢があったわけではありません。通っていた専門学校はトータルビューティーを学べる学校で、外見美だけでなく、内面美も追求しているようなところだったんです。本当に幅広くいろいろなことが学べたので、そこで自分の美容への関心も広がったと思います」
―最初からセラピストを目指されていたわけではなかったのですね。セラピストになろうと思ったのには、何かきっかけがあったのでしょうか?
「自分の進む道を決めかねていた美容学生時代、病気を患いました。突然、左側の上まぶた、下まぶたと順に痙攣しはじめて。最初は『疲れかな』なんて軽く思っていたんですが、そこから徐々に、舌の半分が何も感じなくなりました。味も、触感もなくて。それでも放って置いたら、口をゆすいだ時に水が漏れ出てきてしまうようになって。いよいよおかしいと思って病院に行ったら、その次の日には顔の左側が完全に動かなくなってしまったんです。顔面神経麻痺と診断されて、4ヶ月くらい全く動かないままでした」
「病気になったのは精神的な落ち込みが原因だとはっきり自覚があるくらい、その時ストレスを溜め込んでいたんです。『心とからだって繋がっているんだな』と心から実感しました。内臓の病気ではなく、気持ちが原因でからだに症状が出ることが不思議で。お医者さんからは『このまま元に戻らない可能性もある』と言われて、すごく怖かった。でも、その時何よりも応えたのは“肌荒れ”だったんです。治療の副作用で、顔全部がブツブツになってしまって。コンタクトもできなければ、お化粧もできない。何も隠せなかったんです。ボロボロで、情けない自分にすごく傷つきました。元々は心が原因で病気になったのに、見た目にもわかるようになって、さらに心が閉ざされていきました」
―肌荒れでご苦労なさった経験から、肌を美しくするお仕事への憧れが深まったのですね。
「いざ進路を決めるとなった時、肌荒れに苦しんだ経験から“肌を綺麗にする”エステサロンに漠然と興味を持っていました。治療に専念して少しずつ治っていったんですが、やっぱり気持ちは落ち込んでいて。その頃、家の近くに岩盤浴のサロンができたんです。当時、岩盤浴が流行る前だったのもあって、それが何かを知らなくて。足を踏み入れてみたら、空間・施術、全部においてリラックスできる場所で、モヤモヤしていたことが、ちょっとすっきりしたんです。それが“リラクゼーション”との出会いでした。“心身ともに疲れを癒す職業”があるっていうことを知って、『これだ!!』って直感しました」
―今はマクロビオティックをはじめ色々なセミナーをなさっていますが、新井さんは独立される以前からブログやSNSを使った情報発信をされていますね。
「昔は、言葉にすることがすごく苦手だったんです。でも勉強することは好きで、学んだことをずっとノートにまとめていて。それを知っていたサロンのオーナーに『インプットしたことをアウトプットする場面を増やしてみたら?』って、ブログを勧められたんです。それが7年前くらい。はじめた当初は、1つの記事を書くのにもとても時間がかかってしまっていました。発信するからには間違ったことは書けないから、とことんまで調べる。どんどん自分の知識も深まりました。続けていたらだんだんと『試してみます』や『情報ありがとうございます』といったコメントを頂けるようになって、『サロンワーク以外でも誰かのためになれるんだ』ということに気づいたんです」
―お客様を思うことにつながっていくのですね。
「そのサロンで働いていた時、ミーティングで感動して号泣してしまったことがありました。施術をするだけではなく、セラピスト一人一人がお客様の事を真剣に考えて、話し合うことが出来る時間がとても嬉しくて。『わたしがやりたかった事ってこうゆうことだ』と噛み締めていたら涙が溢れてしまいました。そんなサロンで、素敵なセラピストたちと一緒に働けたことを誇りに思っています」
―そんな温かい先輩や同僚に囲まれて働いていた中、どんな心境の変化で独立に至るのでしょうか?
「実は前からずっと独立したいと思っていたんです。でも自信がなかった。働いていても居心地がいいし、そこに甘えてしまっていました。だけど、もっと一人ひとりのお客様にじっくり向き合いたいっていう思いがあって、ようやく一歩踏み出せました。不安もありますけど、今すごく楽しいです。自分のサロンを、お客様に『ここに来れば癒されるだけでなく必ずポジティブになって帰れる』、そんな風に思っていただける場所にしたいと思っています。セラピストとしても、人としても、誰かの支えになれる存在でありたいんです」
「昔は本当にネガティブ人間だったので、何でも誰かと比べて『どうせ私なんて』って諦めていたところがありました。でも、人に何かを与えられるようになるには、まずは自分のことを大切にしなきゃいけないって、気づいたんです。自分自身が疲れていたり落ち込んでいたりすると、施術の時に手から伝わってしまうんですよね。疲れが溜まらないように、ちょっとでもストレスを感じたらリセットするようにしています。そういうときわたしの場合は、自然のあるところへ行ってエネルギーを吸収する。常に、誰かを癒したり、誰かの疲れを取ったりできるような状態であるようにしています」
―日々忙しくしていると、気持ちを切り替えるのが難しいこともありますよね。
「忙しい毎日でも、ご飯を“ちゃんと”作ることを心がけています。マクロビオティックの考えの中に"一物全体"がいうのがあって、皮も葉も茎も、出来るだけ余すことなく自然の恵みを大切にしながら調理する。オーガニックの野菜を使う時は特にそれを心がけています。また品数を多く作ってみたり、見た目も楽しめるように工夫してみたり。全部じゃなくてもいいんです。できることを、無理しない程度に。人それぞれ、心地いい時間ってあると思うので、それをいつもよりちょっと丁寧に、生活の一部に取り入れてみる。わたしの場合はそれがお料理ですけど、そんな時間が心の余裕にもつながるんじゃないかなって思います。家にちょっとお花を飾ってみるとか、カフェに行ってのんびりするとか、何か特別なことをするんじゃなくてもいいんだなって」
―誰かと比べたり真似したりするのではなく、それぞれの方法で、ということですね。
「『こんな人になりたいな』っていう憧れの人は、わたしにもたくさんいます。目標としている人もいる。でもその人になる必要はないし、自分の強みを生かして、憧れの人のいいところから学ばせてもらえばいい。自分で自分を認められるようになってから、すごく楽に生きられるようになりました。目標の人に近づくために、無理をしたり、背伸びしたりするんじゃなくて、自分にできることをやっていくのが大切。本当にきれいな人って、無理せず、その人らしい生き方をしていて、心とからだのどっちかだけじゃなく、どちらも健康な人なんじゃないかなと思います」
新井佑佳(あらい ゆか)
セラピスト。ayuca organic salonを経営。自身の経験から本当の美しさとは『心とカラダが健康であること』を実感し、単に施術するだけでなく一人一人の症状や悩みに寄り添い、心からリラックスできるようオーダメイドのトリートメントを行っている。リラクゼーション以外にも、マクロビオティックのセミナーやワークショップ等も行う。
(取材・文 道端 真美/撮影 長尾 隆行)
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